外国人の技能実習制度は、国際協力という趣旨を掲げる反面、日本国内の人手不足の貴重な労働力という役割も同時に担ってきた経緯があります。しかし、「技能を習得し、本国の経済発展に役立てる」という本来の趣旨から外れる形となる、劣悪な労働環境などが度々問題とされてきたことも事実です。

そこで、2017年11月1日施行の「技能実習法」によって、大きく制度が改正されることになりました。2020年の東京オリンピックを目前に控え、今後ますます外国人労働者の活躍が期待される中で、法整備がなされた格好です。この記事では、技能実習制度の改正について詳しく解説します。

技能実習制度の改正:前の制度は問題があった?

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改正前は、民間機関であるJITCOが制度運用の指導をしてきましたが、法的権限を持たないために研修生の保護が充分になされていませんでした。2017年の改正では、法的権限をもつ監督機関を新たに設け、研修生の保護を強化する狙いがあります。

旧技能実習制度とは

1993年の制度開始に始まり、度重なる問題と向き合いながら改正を重ね、今日に至っています。2017年11月1日、技能実習法の施行後の制度を新制度と呼ぶのに対し、これより前を旧技能実習制度としています。制度の趣旨は、「日本で習得した技能、技術又は知識を自国に持ち帰り、経済発展を担う人づくり」に貢献すること。この基本理念は1993年に創設されて以来一貫しており、2017年に施行された技能実習法には改めて「日本国内の人手不足を補うための労働力としてはならない」という内容が記されています。

制度の目的は技能習得ですから、もちろん単純労働は認められていません。在留期間は最長で5年とされ、技能の修得過程は実習計画に基づいておこなわれます。

問題があった?

技能実習制度に関しては制度の不備など、以前から指摘されている問題点がありました。主な問題5つをまとめました。

  • 悪質ブローカーの問題

保証金を徴収するなど違法行為を行う機関が存在していたことです。悪質ブローカーの存在も報告されています。

  • 実習体制が整備されていない問題

実施機関や監理団体の責任が曖昧だったため、実習体制が不十分であり、本来の技術を習得するという制度の目的を果たせていないことです。

  • 管理体制が不十分な問題

民間機関であるJITCO(公財国際研修協力機構)が、法的権限のないまま指導をしていたことです。法的権限がないため、チェック内容は監理団体や実習実施機関の協力に委ねられた結果、内容にバラつきが出るなど、徹底した管理や確認ができていませんでした。

  • 実習生の保護体制が不十分な問題

長時間労働など、研修生に対する人権侵害等が原因となるトラブルの報道もありました。

  • 関係する機関との連携体制の問題

業所管省庁等の指導監督や連携体制が円滑でなかったことです。

技能実習制度の改正:今の制度しっかり押さえよう

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企業単独型と団体監理型の 2 種類に分類される技能実習制度ですが、9割以上のケースで団体監理型に該当するため、後者をメインとして考えて問題ないでしょう。制度改正後の大きな変更点は、外国人技能実習機構が新たに設立され、様々な業務が移管されたことです。これまで入国管理局に行っていた申請や管理業務は今後、同機関が行うこととなります。

技能実習制度の資格とは?

在留資格「技能実習」は、入国後1年目を第1号、2・3年目を第2号、4年目・5年目を第3号技能実習として3つに分類されます。

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参考URL:「外国人技能実習制度とは」JITCOホームページ 

「外国人研修生」は、民間または国公営の送出し機関から出国し、日本側の受入れ機関にて研修します。滞在期間は一般的に1年以内とされ、技能習得を目的に作成された研修計画に従って研修を実施。その後、第1号技能実習から第2号、第3号へとそれぞれステップアップするためには、所定の技能評価試験に合格していることが条件です。

また、第2号や第3号に移行できる職種は、主務省令で定められた内容にしか移行できません。第3号に該当する研修生は在留資格が最長5年に延長されますが、実施できる事業者は所定の基準を満たす「優良な実習実施者・一般監理事業の認可を受けた管理団体」に限られます。

開発途上地域への技術移転を目的としている実習制度においては、研修生を受け入れる事業者は計画に沿った研修を行い、評価試験に合格するようにサポートする役割があります。しかし以前より制度の不備として、研修生が長時間労働を強いられ試験勉強の時間が取れないなど、劣悪な環境下で働かされている実態が問題点として指摘されていました。

事業者は制度の趣旨をよく理解し、適正に運用する姿勢が大切です。悪気はなくても、禁止事項に該当する行為は法律で処罰されるので注意しましょう。

受け入れ方法とは?

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外国人技能実習生を受け入れるには「企業単独型」と「団体管理型」の2種類があります。

  • 「団体管理型」とは

    営利目的ではない事業協同組合や商工会などの監理団体が受け入れをし、団体傘下の企業で実習を行う方式。

  • 「企業単独型」とは、

    日本企業が外国の現地法人など、取引先企業の従業員を受け入れて技能実習をする時はこちらに該当します。主に大手企業に多くみられる方式。

<企業単独型における海外所属企業等の範囲>

  • 日本企業の外国にある事業所(支店、子会社又は合弁企業など)
  • 日本企業と引き続き1年以上又は、過去1年間に10億円以上の国際取引の実績を有する機関
  • 日本の公私の機関と国際的な業務上の提携を行っているなど、事業上の関係を有する機関で法務大臣が告示をもって定めるもの。

2018年末では「企業単独型」の受入れが2.8%程度、「団体監理型」が97.2%となっており、研修生の受け入れ方式に関しては団体監理型が主流となっています。

技能実習法とは?

「技能実習の適正な実施と研修生の保護」を目的として、2017年に改正されました。ただし制度の趣旨は、以前の制度と変わりがなく、その趣旨をより徹底するために新設された法律という位置づけです。そのため、基本理念である「技能実習は、人手不足を補う労働力としてはならない」という内容は引き続き明記されています。

研修生を保護するための政策として、法的権限を持つ外国人技能実習機構が新設されたことが大きな改正点です。

外国人技能実習機構について

外国人技能実習機構とは、技能実習法にて制度改正の柱として新設された法的権限をもつ監督機関です。これまで問題点を指摘されつつも日本国内の人手不足に関して重要な役割を果たしてきた実習制度ですが、今後は外国人技能実習機構によって運用状況を厳しくチェックされます。

一番の注目すべき変更点は、これまで入国管理局やJITCOが行ってきた業務をまとめて行い、更にさまざまな役割や権限が与えられている点。主な役割をまとめました。

<外国人技能実習機構の役割>

  • 技能実習計画の認定、実習実施者の届出の受理
  • 監理団体の許可申請の受理など
  • 監理団体や実習実施者に対する指導監督
  • 研修生からの相談・申告

制度改正前まではJITCOが実地調査などを行ってきましたが、民間団体であったため行政指導をする法的権限はなく、不適切な監理を行う監理団体に対して指導が行き届かないという制度上の問題がありました。しかし今後は、外国人技能実習機構の指導に従わない際は、監理団体の許可を取り消される可能性があります。

技能実習制度の改正点は押さえられましたか?

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技能実習制度は、ブローカーや管理が不十分など様々な問題を抱えつつも、国際協力という趣旨の下で今日まで多くの外国人が日本に来日し、技能を習得してきた歴史があります。

日本としても国内の人手不足は深刻な状況で、外国人労働者に頼らざるを得ないのが現状。外国人を単なる労働力ではなく、お互いにWIN-WINの関係を築くことを理想とするなかで、今回制度が改正されたことは大きな前進です。旧制度とは手続きが異なるため、今一度制度の理解に努めて有意義な雇用にお役立てください。