近頃日本の企業でも外国人採用が盛んに行われています。注意点やメリットも理解したし、ぜひ自社でも採用したい!と思われている企業の担当者も多いでしょう。そんなとき「外国人の厚生年金ってどうなっているの?」「そもそも払う必要ってあるんだっけ?」という疑問を持つ方が少なくありません。今回は外国人の厚生年金について、そもそも払う必要があるのか、押さえるべきポイントは何かを解説します。

外国人でも厚生年金に加入する義務がある

厚生年金を払う条件を満たしていれば外国人であっても厚生年金に加入して保険料を支払わなければなりません。日本の社会保障制度は、国籍に関係なく日本に住んでいれば原則として日本人と同じように適用されます。外国人の厚生年金加入に関して気をつける点は、自国の年金との二重払い、年金加入期間の通算、帰国のときと手続きです。

そもそも日本の年金ってどうなっているの?

日本の年金は厚生年金と国民年金の2種類があり、必ずどちらかに加入しないとなりません。それぞれの加入条件は次のようになっています。

■厚生年金

法人登記された会社は一部の業種以外は厚生年金が強制適用されるので、適用事業所で常時雇用されている場合は自動的に厚生年金に加入することになります。

非正規雇用の場合でも次の条件を満たすと加入対象になります。

  • 週の所定労働時間と1か月の労働日数が常時雇用の4分の3以上、または週の所定労働時間が20時間以上ある、または従業員が501人以上いる企業である
  • 勤務期間が1年以上になる見込み
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 学生ではない

■国民年金

厚生年金の加入対象にならない人はすべて国民年金の加入対象になります。具体的には

  • 厚生年金加入条件を満たさない非正規雇用
  • 日雇いで雇用される
  • 2か月以内の有期雇用
  • 雇用される事業所の所在地が一定でない
  • 4か月以内の季節的な業務に従事
  • 6か月以内の臨時事業を行う事業所に雇用される

といった条件が挙げられます。

外国人は何に気を付けるべき?帰国したら?

年金を受給するためには、保険料を合計で10年以上支払う必要があります。ですから、外国人が日本で年金に加入しても10年未満で帰国してしまう場合には原則として年金を受け取ることができません。また、自国の年金も支払う必要があるので年金を二重に払うことになります。

ただし、条件を満たすと脱退一時金が受給できたり、自国と日本が社会保障協定を結んでいる場合は、二重払いの防止や年金加入期間の合算ができます。

外国人社員が厚生年金に加入したがらない…そんなときは?

10年未満で帰国する場合は基本的には年金を受け取ることができず、年金保険料も二重に払うことになるので、外国人が厚生年金に加入したがらないケースも十分に考えられます。ただし、条件を満たせば脱退一時金を受給できますし、社会保障協定を結んでいる国の国籍であれば保険料の納付期間が10年未満でも年金を受け取ることができます。

条件を満たす場合には完全な掛け捨てにはならないことをしっかり説明をして厚生年金加入に同意してもらいましょう。

脱退一時金とその計算方法とは?

日本国籍を持っていない外国人が、厚生年金の資格を喪失して日本を出国したとき、日本に住所がなくなった日から2年以内であれば脱退一時金を申請することができます。2017年以降は転出届を提出すれば、転出予定日以降に日本国内で請求することが可能になっています。

脱退一時金の金額は

被保険者期間の平均標準報酬額 ×支給率

で計算をします。支給率の算出は、最終月(厚生年金の資格を喪失する月の前月)がいつなのかによって変わります。

※係数は以下の表を参照。

・最終月が1月〜8月

前々年月10月の保険料率×1/2×係数

・最終月が9月〜12月

前年10月の保険料率×1/2×係数

被保険者期間係数
6か月以上12か月未満6
12か月以上18か月未満12
18か月以上24か月未満18
24か月以上30か月未満24
30か月以上36か月未満30
36か月以上36

分かりやすいように具体的なモデルケースを使用して計算の仕方を見てみましょう。

■外国人社員のモデルケース

月収20万円、賞与は40万が年2回、3年間勤務

・計算

この社員の平均報酬額は

(20万円×36か月+40万円×6回)÷36か月=960万円÷36か月=266,666円

を平成29年9月からの18.300%として計算すると、脱退一時金は

266,666円×15.900%×1/2×36=878,397円

となります。

ここから所得税が源泉徴収された金額が社員に支払われます。所得税は後日還付申告をすれば払い戻しを受けることも可能です。注意点としては、被保険者期間が36か月以上あっても脱退一時金の金額は増えません。長年日本で働いていた社員の場合、加入期間に対して十分な一時金がもらえない可能性が出てくる点注意しましょう。

二重払いを防ぐ!社会保障協定とは?

国をまたいでの人材の移動が増えてきたため、保険料の二重払いを防止したり、年金加入期間の合算ができる制度が整えられました。これが社会保障協定です。

海外から日本に来て働く場合、条件を満たせば日本の厚生年金に加入する義務がありますが、自国の社会保障にも加入しているので日本にいる間は保険料を二重に支払わなければなりません。また年金を受け取るためにはその国の社会保障制度に一定期間加入していなければならないので、保険料の掛け捨てが生じてしまうケースもあります。

そこで社会保障協定を締結して、次の2点を可能にしています。

①保険料の二重負担を防止

協定が発効後は、原則として就労する国の社会保障制度のみに加入します。ただし、5年以内の一時派遣の場合には自国の社会保障制度のみに加入します。

②年金の加入期間を通算して保険料が掛け捨てにならないようにする

自国と日本での年金制度の加入期間を通算して、年金を受給するために必要とされる期間以上になればそれぞれの国の制度への加入期間に応じた年金がそれぞれの国から受給できます。

日本は年金受給のために10年以上の加入期間が必要ですが、日本での年金加入期間が10年未満でも自国と日本での年金制度の通算加入期間が10年を超えていれば、日本での加入期間に応じた年金を日本から受給することができます。

現在21か国と社会保障協定を締結していて、そのうち18か国が発効しています。

出典:みずほ総合研究所 増加する外国人労働者と年金

現在発効している18か国すべての年金の二重加入防止制度が使用できますが、加入期間の通算に関してはできない国もあります。年金の他に、医療保険、雇用保険、労災保険に関しても二重加入防止制度が取られている国もあります。

社会保障協定を結んでいる国は欧米諸国が多くなっています。現在、日本で働く外国人労働者はアジア諸国の出身者が多くなっていて、今後ますます増えることが予想されていますが、締結国は少なく、協定が発効しているのは韓国・インド・フィリピンのみです。

※中国は発効準備中、トルコは政府間交渉中、ベトナムは予備協議中

社会保障協定と脱退一時金

社会保障協定を結んでいる国の社員であっても、脱退一時金の受け取りを選択することができます。ただし、脱退一時金を受け取ってしまうと日本での厚生年金の加入期間は年金の加入期間として通算することができなくなります。

ですから、社員の国籍が社会保障協定を結んでいて、かつ年金の加入期間の通算が可能である国の場合、将来年金として受け取るか、脱退一時金を今もらうかの見極めをしっかりと行う必要があります。

自国と日本の社会保障協定の締結の状況によって、日本で払った保険料分の年金受給を受けるための制度が変わってきます。

社会保障協定年金加入期間通算年金を受け取る制度
なし脱退一時金
ありなし脱退一時金
ありあり脱退一時金 または 将来の年金受給

外国人の厚生年金はここを押さえて!

外国人であっても厚生年金の加入条件は日本人と同じです。違う点は帰国した場合に脱退一時金を受け取れるケースがあること、社会保障協定が有効なケースがあるということです。日本で払った年金が全くの無駄にはならないように様々な制度が整えられていますので、外国人社員の国籍や働く期間に合わせて、事前に使用できる制度の説明をきちんとしておきましょう。