企業が新たに外国人従業員を迎え入れる際、どのように給与が設定されているかご存知でしょうか。
日本政府が外国人採用を推進し、今では街のコンビニエンスストアや飲食店などで外国人が働くことは当たり前になりました。

昨今、外国人労働者の採用を実施・検討する企業が増加していますが、一番初めに躓くのが「賃金や源泉徴収など給与関係の処理」についてです。

本記事では、外国人労働者の雇用における給与設定や源泉徴収など、賃金に関する注意事項を紹介します。

外国人労働者を雇用している企業の賃金実態

外国人労働者は、個人の持つ技術・知識に合わせて異なる在留資格を保有しています。
在留資格には、業種に特化した「専門・技術的分野」「特定技能」「技能実習」や、制限のない在留資格が存在します。
それぞれの在留資格の取得条件は、技術や日本語レベルなどによって異なるため、外国人労働者の賃金にもこれらの差異が影響を与えています。

以下の表は、在留資格別の外国人労働者の平均賃金を「初年度の賃金」と「時間の経過とともに変動する賃金」に分けたものです。

在留資格とは、企業で働くために必要なスキルを持っているかどうかを証明できるものです。
外国人採用を検討している企業は、それぞれの在留資格に対する賃金水準や福利厚生などを考慮し、公平かつ適正な報酬体系を整備しましょう。

参考:e-Stat(政府統計の総合窓口) 令和4年賃金構造基本統計調査(外国人労働者)

外国人労働者も日本人と同じ水準で給与設定する

当然ながら、外国人労働者も日本人と同じ水準で給与を設定することが前提です。
企業担当者が認識すべきポイントは「日本国内で就労する限り、労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法などの労働保護法は国籍に関係なく適用される」ということです。

最低賃金を厳守する

地域別の最低賃金は、毎年10月以降に順次発行されます。更新される最低賃金は必ず把握しましょう。
月給制の場合は1ヶ月の平均所定労働時間で除算することで、時間当たりの賃金を算出しが最低賃金を下回っていないかの確認が必要です。

また、企業が「特定最低賃金」の適用業種である場合は、通常の地域別最低賃金に加えて最低賃金の割増しが必要です。

残業代の支払いを厳守する

在留資格の種類によっては1ヶ月の労働可能時間が制限されている場合がありますが、制限時間を超える場合にサービス残業をさせることは違法です。

また在留資格の種類に関係なく、企業が命じていなくても従業員が自主的にサービス残業をおこなってしまう場合があります。
これにより後々トラブルに発展するケースが増えているため、管理者は注意する必要があります。

扶養家族がいる場合は必要年収が増える

Credit:Monkey Business Images/Shutterstock.com

外国人労働者が単身の場合は、各在留資格の取得に必要な年収基準をクリアしていれば問題ありませんが、扶養家族がいる場合は「1人につき70万円程度加算」された年収が必要になります。
外国人労働者の採用活動をおこなう際は「扶養家族の有無」と「加算した金額を支払えるかどうか」を確認しましょう。

事前に説明して理解を得る

給与体系や各種手当に関する情報を事前に労働者に説明し、理解を得ておくことは必須です。
外国人労働者が日本で働く際、手当の構成が母国と異なるため本来の期待に添えない場合があります。

事前に誤解や不満を防ぎ、双方が納得できる給与を設定しましょう。

外国人労働者は「安い労働力」と誤解されがちですが、いかなる在留資格であっても労働保護法は適用されます。
そのつもりがなくても、法律で定められた賃金以下で働かせることは違法だということを理解しておきましょう。

参考:厚生労働省 特定最低賃金について

外国人労働者の給与にかかる源泉徴収制度

Credit: Amnaj Khetsamtip/Shutterstock.com


外国人を雇用する場合も支払った給与には所得税などが課税され、源泉徴収が必要となります。

ここでは、外国人労働者の給与に係る源泉徴収制度について説明します。

「居住者」と「非居住者」は課税率が異なる

居住者とは「日本に1年以上継続して住んでいる」かつ「日本国内に生活拠点となる住所がある」外国人のことです。
居住者の場合、日本人と同様に累進課税が適用されます。源泉徴収は日本人従業員と同様におこないます。

非居住者とは「居住者以外の個人」のことです。
外国人労働者が非居住者の場合は、給与の支給額に対し「一律20.42%」の税率で源泉徴収をおこないます。

非居住者は年末調整が不要

居住者は社会保険料やその他控除の対象となるため、年末調整が必要です。
これに対し非居住者は源泉徴収のみで課税関係が完結するため、年末調整は不要になります。

租税条約による特例で住民税・所得税が免除される 

租税条約とは、所得税などが国を挟んで二重に課税されることを回避するために、日本と諸外国との間で締結されている条約です。
外国人労働者の出身国が日本と租税条約を締結している場合は、住民税や所得税が免除されることがあります。

適用を受けるには、外国人労働者を雇用している企業自身が管轄の税務署へ書類を提出する必要があります。年度毎に手続きが必要なため、忘れないように注意しましょう。

海外から派遣された外国人(エクスパッツ)は課税の要否が異なる

エクスパッツとは、海外の支店や関係会社などに所属したまま日本に派遣される(赴任する)労働者のことをいいます。

長期にわたる派遣の場合は日本の税法や社会保険法が適用されますが、一般的にエクスパッツは短期間の派遣が多いことから、通常の雇用契約とは異なり所得税や住民税・社会保険料を、本人に代わって企業が負担するケースがあります。

その算出に用いられるのが「グロスアップ計算」です。
企業が負担するエクスパッツの社会保険料額等を給与として処理し、さらに経済的利益にあたるため課税処理をおこないます。
給与計算方法が複雑なため、専門家の助言を受けながら進めることをおすすめします。

このほかにも、外国人労働者が退職・帰国する際には「残りの住民税の一括徴収」もしくは「納税管理人を選任」する必要があることを説明しておくなど、後々のトラブルを回避するために事前の説明を欠かさないようにしましょう。

参考:国税庁 日本における給与に係る源泉徴収制度の概要

参考:国税庁 源泉所得税(租税条約等)関係

参考:社会保険労務士法人HRビジネスマネジメント 外国人の給与計算(エクスパッツ)

外国人の給与について詳しくなりましたか?

外国人を雇用する際は、同一労働同一賃金が前提です。しかしながら、給与支払いに関しては日本人と異なる仕組みが適用される部分があります。

まずは企業担当者が外国人労働者の賃金・手続きについて理解を深め、給与を設定することが重要です。
採用前には必ず外国人に対して給与に関する説明をおこない、双方が納得したうえで労働関係を築きましょう。

Header image Credit: Pickadook/Shutterstock.com