外国人を雇用する際の社会保険についてご存知ですか?
外国人の社会保険をどう取り扱うべきかというテーマは、企業の人事担当者から非常に多く寄せられる質問です。
近年は日本でも、ホワイトカラーブルカラー問わず外国人を雇用するケースがますます増えています。

そこで今回は、外国人の社会保険についての基本をご紹介いたします。

外国人を雇用するにあたって「そもそも社会保険に入る必要性はあるのか」「外国人向けの社会保険があるのかどうか」「また手続きにあたってどんな注意点があるのか」などを焦点にして解説していきます。

外国人は社会保険に入る必要ある?

結論からいうと、外国人が日本で働く場合は社会保険の加入が必要です。
そのため日本人を雇用するのと同様に、社会保険の加入手続きを行わなくてはなりません。

労働関係の法令や社会保険関係の法令は、「日本で働く労働者」に適用されます。
「日本で働く」という点が重要で、そこに国籍の違いはないのです。
後述するように業種や従業員数によっては、加入が任意となるケースもあります。
しかしほとんどの場合は社会保険に入ることが原則です。

そもそも社会保険とは?

社会保険は、「健康保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」の総称のことです。
労働者を守るという観点から、加入が義務付けられているものです。
では、それぞれについて解説していきます。

健康保険

健康保険は、病気やケガによる医療費を保障してくれます。
事業所と労働者が折半して保険料を納めます。
実際にかかった医療費のうち、原則として3割を負担するだけで治療が受けられます。

厚生年金保険

厚生年金保険は労働者が加入する年金制度です。
一定の掛け金を納めることで、将来65歳を超えてからの「老齢年金」や、ケガや病気で障害を受けた場合の「障害年金」といったかたちで年金を受け取ることができます。

労災保険

労災保険は、労働者が通勤途中や仕事中に受けたケガや障害で保険給付が行われるというものです。
休業時の手当や、死亡時の遺族への手当などを含みます。
保険料については「事業所が全額を負担する」のが特徴です。

雇用保険

雇用保険は、失業した際に「失業給付金」を受け取ることができるというものです。
生活を安定させる目的がありますが、再就職の支援という意味合いで「教育訓練給付金」もあります。

在留資格の要件になる?

社会保険の加入は、「外国人が日本に在留するための要件のひとつ」と一般にいわれています。
在留資格が得られなければ、日本で働くことができなくなりますので注意しておきましょう。

法務省入国管理局がまとめた「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン(改正)」によれば、2010年4月1日からは在留資格の変更や在留期間の更新を申請する際には、保険証の提示がもとめられています。
その目的は「社会保険への加入促進を図るため」です。

なお「保険証を提示できないことで在留資格の変更又は在留期間の更新を不許可とすることはありません」との注意書きはあります。
しかし「社会保険への加入の促進を図る」としていることから、審査基準のひとつになっていることはまちがいありません。

▶︎「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン(改正)

外国人社会保険を種類別にみる

ここまでは外国人が社会保険に入る必要性をとりあげました。
実際に社会保険に入る手続きを行うとして、そもそも外国人向けの社会保険にはどんな種類があるのでしょうか?
ここでは健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険という4つの社会保険の概要を解説します。
また外国人ならではの、手続き上での注意点もチェックしましょう。

外国人の健康保険

健康保険は雇用者の福利厚生を目的とする医療保険です。
「社保」(しゃほ)とも呼ばれています。ちなみに市町村が運営して個人で加入する「国民健康保険」(国保:こくほ)とは異なるものです。
ここでは社保を取り上げます。

法人であれば業種や社員数、また国籍に関係なく、健康保険に加入する必要があります。
しかし個人事業の場合は、従業員数が常時5人未満の事業者や、定められた一部事業の事業者のみ任意での加入になります。

また従業員数が500名未満の事業所の場合は特例があり、正社員と比べて労働時間が4分の3以下となるパートタイマーの雇用については、健康保険に加入させなくてもいいケースがあります。
501名を超える従業員の事業者であっても、1週間あたりの労働時間が20時間未満で、月の賃金が88,000円未満、かつ雇用期間が1年未満となる学生であれば「任意」となるケースがあります。

健康保険にはメリットが色々とありますが、後述する「厚生年金保険」とセットで加入しなければいけません。
この点については注意が必要です。

外国人の厚生年金保険

厚生年金保険は、会社の労働者が加入する年金制度です。

前述の「健康保険」とセットで加入します。
健康保険と同様に、法人については業種、社員数、国籍に関係なく加入する必要があります。
個人事業者についても、5人以上の従業員がいる場合は加入しなければなりません。

外国人の加入でよく問題となるのが「健康保険には入りたいが、厚生年金保険には入りたくない」というもの。
厚生年金保険の特徴は一定の掛け金を納めることで、将来お金を受け取ることができるというものです。
そのため、将来また日本を出国する前提のときに「実質的にはかけ捨てになってしまうのではないか」という心配が背景にあるようです。

しかし日本に住所を持たなくなった日から2年以内であれば、「脱退一時金」を請求できる仕組みがあります。
「短期在留外国人の脱退一時金」という制度です。

外国人雇用にあたっては健康保険に入ることのメリットだけでなく、この点の説明をしっかり行うことも大切です。覚えておきましょう。

外国人の労災保険

労災保険は、通勤の途中や仕事中に被った労働災害を保障してくれる制度です。
従業員を雇用した場合には、こちらも加入をする義務があります。
短時間勤務のパートやアルバイトであっても加入が義務付けられています。

外国人の労災保険を考える上で注意すべきポイントは、日本での就労が可能な在留資格をもたない外国人についても適用される、という点です。

就労ビザ以外のビザ(就労目的外ビザ)で入国した人であっても、入国管理局に申請して「資格外活動許可」を得ることができれば、週に28時間までのアルバイトが可能です。
また、在留資格をもたない外国人(不法滞在者)についても適用されるというのが労災保険の特徴です。

なお厚生労働省は「外国人労働者向け労災保険給付パンフレット」を用意しています。
日本語だけでなく、外国語の翻訳版もあるので、ぜひチェックしておきましょう。

▶︎「厚生労働省:外国人労働者向け労災保険給付パンフレット

外国人の雇用保険

雇用保険は、失業した際の再就職支援のための保険です。
従業員をひとりでも雇用する事業者は、雇用保険への加入手続きをしなければなりません。ただし「1週間の所定労働時間が20時間未満である者」や「継続して31日以上雇用されることが見込まれない者」については適用除外です。

外国人雇用で注意したい点は、「在留資格が就労であるかどうか」を確認することです。
不法就労の場合は雇用保険への加入ができません。
不法就労と知りながら雇用をした場合には、会社側に責任が問われることもあります

なお前述の通り、学生は「資格外活動許可」を得れば、週に28時間までのアルバイトが可能です。しかし通信教育や夜間校ではなく、昼間の学校に通う学生は雇用保険の「適用除外」となります。

またワーキングホリデーの場合も在留資格が「特定活動」となり、雇用保険の対象外となります。ぜひ注意しておきましょう。

外国人の社会保険は日本人と同じです!

外国人の社会保険について解説してきましたが、いかがでしょうか。
社会保険は労働者を守るための保険です。そのため雇用する側の企業も、しっかりとルールを理解した上で加入手続きを進めることが重要です。

社会保険には健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の4種類があります。
それぞれ制度も複雑で、人事担当者でも理解が追いつかないこともあるかもしれません。
しかし日本人であっても外国人であっても同じように適用されると分かれば、理解の助けとなるでしょう。

すでに解説した通り、外国人でも日本で働く場合は社会保険の加入が必要です。
労働関係の法令や社会保険関係の法令は、日本で働くすべての人に適用されるためです。

外国人の雇用には大きな可能性があります。せっかく日本で働いてもらう以上は、「制度面で不安のない状態」で仕事をしていただきたいものです。
ぜひ制度の概要や注意点をしっかりと理解いただいた上で、外国人のみなさまにも安心して働ける職場づくりを進めていきましょう!