近年の外国人増加の流れに従い、日本企業も外国人採用を検討するようになっています。もちろん、企業が外国人を受け入れるのにはメリットもありますが、あまり知られていない落とし穴や注意点も多く存在します。
そこで今回は、外国人採用の需要が増えている背景や理由を探りながら、外国人採用で重要となる注意点を詳しく解説します。行政書士監修のもと作成された記事になりますので、情報の正確さについてはご安心ください。
また外国人採用のメリットについては、こちらの記事で詳しく紹介されています。表と裏を知ることによって、外国人採用についてさらに知識を深めることが可能です。ぜひ併せてご覧ください。
【行政書士監修】外国人採用のメリット6選!注意点も併せて解説
目次
そもそもなぜ外国人採用が増加しているの?

外国人採用が増加している背景にあるのは、日本の労働力不足です。厚生労働白書の「労働経済の基礎的資料」によると、日本の労働人口は2000年をピークに徐々に減少しています。
全体の60~65%を占める30~59歳の労働人口は、2000年以降も大きな変化はありません。しかし2000年に全体の23.5%だった15~29歳の労働人口は2017年に17.7%に減り、2030年には16.5%まで減少することが見込まれているのです。社会問題となる少子高齢化が、日本の労働力減少の大きな要因ということができるでしょう。
この労働人口減少による人手不足を穴埋めするために、政府は積極的に外国人労働者の受け入れを推し進めているのです。2018年10月に厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」によると、日本国内の外国人労働者は146万人。2013年には71万8000人だったので、5年間でほぼ2倍に急増したことになります。
その要因は、政府が高度外国人材の受け入れ促進を図り、出入国管理上の優遇措置を設けたり、留学生が増加したりしたことが挙げられるでしょう。また外国人採用にあまり積極的ではなかった日本企業が、就労可能な在留資格を持つ日本人の配偶者や永住者などの受け入れを進めたことも要因のひとつです。
さらに2019年4月には入管法が改正され、特定産業分野での知識や経験、技能を持つ外国人が対象となる新たな在留資格「特定技能」が導入されました。そのため、今後さらに専門知識を持つ外国人採用が加速されるでしょう。
このようにさらなる増加が見込まれる外国人採用ですが、採用手続きや文化・習慣の違い、宗教の自由など懸念材料があることも事実です。外国人採用で重要となる注意点を、詳しく解説していきます。
外国人採用の注意点1:在留資格認定

外国人を採用する際、最初に必要となるのは「在留資格」の確認です。「在留資格」とは外国人が日本に滞在するための資格のことで、4月に追加された「特定技能」を含めて29種類(2019年4月現在)あります。
日本に滞在している外国人は、この29種類の在留資格の内のどれかを持っていなくてはなりません。ただし観光ビザなどの短期滞在者は、この限りではありません。また29種類の在留資格の内、就労が可能な資格は留学や家族滞在者などを除く23種類(2019年4月現在就労系ビザ19種類、身分系ビザ4種類が就労可能)です。在留資格の取得は法務省へ申請することで認定証明書が交付されます。
すでに日本国内にいる外国人を採用する場合と、海外にいる外国人を来日させて雇用する場合では、それぞれで注意点が異なります。しっかり確認を行い、問題が起こらないようにしましょう。
日本国内に滞在している外国人を採用する場合

採用したい外国人が日本国内いる場合、彼らがおこなう予定の職種や業務内容と、所持する在留資格に違いがないかどうかを確認する必要があります。もしそれらが異なる場合は、採用後の職種や業務内容に該当する在留資格へと変更しなければなりません。在留資格は「在留カード」の提示を求めれば、簡単に確認することができます。
この際「在留カード」の実物を見るようにしましょう。コピーなどの場合偽造の可能性があります。もし、しっかり確認せずに雇用してしまった場合、雇用側が逮捕される可能性があるので十分注意しましょう。
海外に滞在している外国人を採用する場合

海外にいる外国人を来日させて雇用する場合、採用予定者の学歴や職歴と、採用後の職種や業務内容が一致するかしないかを確認しましょう。というのも、就労可能な在留資格は23種類もあり、各々に応じてしっかりと申請しなくてはならず、もし細かく決められた要件を満たしていなければ、資格を取得することができなのです。就労可能な在留資格を取得できなければ日本国内で働くことはできないため、雇用契約を交わす前に学歴・職歴等をしっかり確認しておく必要があります。
また日本企業がスポンサーとなり、採用予定の外国人の在留資格認定証明書を代理申請することも可能です。これまで外国人採用の経験がない企業は、書類作成や申請を行政書士や弁護士に依頼する方がより確実かもしれません。
外国人採用の注意点2:就労ビザ申請

「在留資格」と「就労ビザ」は混同しやすいので、確認のために解説しておきます。在留資格は「出入国管理及び難民認定法」という法律に基づいて認定されるもので、管轄は法務省です。つまり在留資格認定は法務大臣が出す証明のこと。
一方でビザ(査証)は外務省の管轄で、外国人が在外日本大使館や領事館にパスポートを提示して日本入国を申請し、当該外国人の入国に問題がなければ発給されるものです。
ビザの発給を受けた外国人が日本に入国する際、発給されたビザを入国審査で提示して入国が認められれば、在留資格が与えられます。要するにビザは外務省から法務省への推薦状のようなもので、推薦状が適正なものだと法務省が判断したら在留資格が付与されるという仕組みです。ただしビザは在留資格を約束したものではないため、ビザが発給されたのに関わらず在留資格認定証明書が交付されないこともあります。そしてその逆もまた然りということで、注意が必要です。
このように「ビザ(査証)」は日本へ入国するために必要なものであり、「在留資格」は日本に滞在するために必要なものという違いがありますが、その両方を指して「ビザ」と呼ぶことが一般的となっています。なお29種類ある在留資格の内、就労が可能な資格23種類が「就労ビザ」に当たるのです。
就労ビザに関しても、日本国内に滞在する外国人と海外にいる外国人に分け、注意点を解説します。どちらの場合も在留資格で決められた業務範囲を超えれば「不法就労」となり、不法就労する外国人を雇う企業にも責任が求められ、刑事罰が課される恐れがありますので注意しましょう。
日本国内に滞在している外国人を採用する場合

国内に滞在している外国人は何らかの在留資格を持っていますが、就労が認められている資格でなければ日本国内で働くことができません。日本に滞在している外国人を採用する場合、就労可能な在留資格(就労ビザ)の有無を確認するだけでなく、在留資格の変更が必要かを確認する必要があります。
例えば留学生の新卒者や就職活動中の外国人既卒者を採用する場合、それぞれが持つ「留学」と「特定活動」という在留資格から、就労可能な在留資格へと変更する必要があるということです。逆に雇用者側は、資格変更が申請されたかどうかをしっかり確認しましょう。
また就労ビザの申請や更新が認められなかった場合は、申請を行った出入国在留管理局(以下、入管)から本人へと不許可通知あるいは出頭通知書が届きます。どちらにしても入管へ出向いて、許可されなかった理由を聞いてみましょう。行政書士に依頼した場合は、入管へと同行してもらうことをおすすめします。
海外にいる外国人を採用する場合

雇用者となる日本企業が在留資格認定を代理申請して証明書が交付された際には、証明書の原本を採用予定の外国人が住んでいる国へと送らなければなりません。証明書を受け取った外国人は、自国にある日本大使館や領事館に出向いてビザを申請します。
彼らの日本への入国に問題がないと判断されればビザが発給され、来日が可能となります。国や地域によっては郵便事情が異なるので、証明書の送付にも注意が必要です。
就労ビザ申請は手間も時間もかかる作業です(在留資格認定証明書交付申請を含む)。企業や外国人本人が出頭しなければならないケースもあり、企業側にとって大きな負担になる可能性もあります。あまり申請に時間をかけられない場合は、申請書類を作成・提出できる届出済申請取次行政書士に依頼するといいでしょう。なぜなら書類作成業務をすべて任せられる上、企業や外国人本人の出頭が免除されるからです。
外国人採用の注意点3:就労環境の整備

外国人採用の急増に伴い、日本の就労環境は急速に変化しています。経済産業省は2017年3月、企業のダイバーシティに関する取り組みを示した「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定しました。このガイドラインから、外国人採用に関する就労環境の整備における注意点を探っていきます。

全社的環境整備

就労環境が急速に変化しているため、外国人向けの社内制度等の整備だけでなく、日本人を含めた全社的な環境整備が必要です。
例えば日本人には当然の業務マニュアルでも、外国人の多くは目にしたことがないと思われます。そこでマニュアルを翻訳してあげるなど、彼らに対し一手間をかけてあげることが本当に大切です。業務に余裕があるようであれば、「もしかしたら字面だけでイメージすることは難しいのでは?」と思考を巡らせ、動画のマニュアルを用意してみても良いかもしれません。
業務マニュアルは飽くまでも一例でしかなく、全社的環境整備においてカバーリングしなければならない範囲はとても広く、企業にとっては工数がかかってしまうものかと思われます。すべてを完璧にカバーすることは勿論理想ではあるものの実際には難しいため、比較的簡単なものから着手してみることがオススメです。さらには前述の動画のマニュアルのように、一工夫を加えてあげると外国人労働者にとってのストレスが軽減されるでしょう。
社内の多様性理解の促進

社内における多様性への理解を高めることも大切です。一般従業員だけでなく、役職者へのトレーニングも実施しましょう。また帰国しやすくする長期休暇などの配慮や、宗教の自由の尊重なども必要になります。さらに文化的な違いにも注意が必要です。外国人の中には謝ることはよくないと考えたり、人前で叱られることを最高の侮辱と感じたりする文化もあります。彼らへ日本的な習慣を押し付けないようにすることが大切です。
また採用された外国人に対して、日本文化や企業の評価システムを学ぶ研修などを取り入れるのも相互理解につながります。まずは自社でできることから取り組んでいきましょう。
外国人採用は注意点もあるが経営戦略としての検討も重要

国内だけでなく海外市場も視野に入れた事業展開をする日本企業が多くなり、外国人採用にも拍車がかかりました。多様な人材が集まることで、企業内が活性化されるなど多くのメリットがあります。
またダイバーシティが広がれば、グローバル社会に対応できる日本人を社内で育てることも可能でしょう。もちろん情報不足によるアンマッチや能力に応じた正当な評価など、いくつか課題があるのも事実です。しかしさらなる人材不足が予想される日本では、より幅広い分野で外国人採用の増加は続いていくと考えられます。今後は優秀な人材の争奪戦が予想されるため、経営戦略のひとつとして外国人採用を検討してみてはいかがでしょうか。
今回の記事の作成における引用・参考文献
厚生労働白書「労働経済の基礎的資料」(2019年5月25日取得)
「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 平成 30 年 10 月末現在(2019年5月25日取得)
在留資格「特定技能」について 出入国在留管理庁(2019年5月25日取得)
初めての外国人雇用◆就労ビザの基礎知識 若松絵里社労士・行政書士事務所 (2019年5月25日取得)
ダイバーシティ 2.0 行動ライン (2019年5月25日取得)