外国人の採用が決まったら、企業が次におこなうのは「雇用契約書」の作成です。
外国人労働者向けの雇用契約書は、文化の違いを配慮しながら作成することでトラブルを未然に防ぐことができます。

本記事では、外国人労働者向けの雇用契約書を作成するうえで注意すべきポイントを、発生しがちなトラブルとあわせて解説します。

今後外国人を採用する可能性がある企業担当者の方はもちろん、すでに外国人と雇用契約を交わしている方も、今一度確認してみてください

そもそも雇用契約書とは? 労働条件通知書との違いについて

本編に入る前に、前提として「雇用契約書」について簡単に説明します。

労働基準法に基づき、雇用主は労働者に対して書面で労働条件を通知する義務があり、これは外国人労働者に対しても例外なく適用されます。

ただし労働条件を通知するためには、かならず雇用契約書を作成しなくてはならない、ということはなく「労働条件通知書」などでも問題ないとされています。

以下に「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いを記載します。

雇用契約書とは

  • 契約書の一種。「雇用主」と「労働者」双方の署名押印(又は記名捺印)が必要
  • 絶対的明示事項(労働契約の期間や業務内容、賃金など)の記載が必須
  • 雇用主と労働者、双方が労働条件に合意したことを証明できる
  • 在留資格「特定技能」においては、他の在留資格より条件が厳しく雇用契約書の作成までが義務付けられている

労働条件通知書とは

  • 雇用主が労働者に対して一方的に労働条件を通知する方法
  • 絶対的明示事項(労働契約の期間や業務内容、賃金など)の記載が必須

総括すると労働条件通知書が発行されていれば、雇用契約書を発行する義務はないです。
一方で雇用契約書を発行し、雇用主と労働者の双方が労働条件に合意することで、後々の認識違いや勘違いなどによるトラブルが起きることを避けやすくなる、ということになります。

とくに外国人を採用する場合は文化や言語の違いから、認識の齟齬が起こりやすくなります。働き始めてからトラブルが起きないように、雇用契約書の作成は必須と考えておいた方がいいでしょう。

外国人向けの雇用契約書を作成する際のポイント

つづいて、外国人向けの雇用契約書を作成する際のポイントについて紹介します。

外国人は在留資格を申請する際に、雇用契約書(または労働条件通知書)の提出が必要です。
申請後に入国審査官から外国人本人に連絡が入ることがあるため、契約内容について本人がしっかり理解できる内容の雇用契約書を作成しましょう。

ポイント1. 職務内容を母国語で記載する

まずは雇用契約書の中でも絶対的明示事項となっている、「職務内容」を母国語で記載するようにしましょう。

日本で働くことを望んでいる外国人とはいえ、完璧に日本語を理解できているとは限りません。難しい日本語で書いてあったから「就業内容を理解できていなかった」となってもおかしくないです。気をつけましょう。

職務内容自体は日本人労働者と同じだとしても、母国語での契約書も作成するのがベターといえます。
また各在留資格に記載されている職務内容以外の職務を任せることはできませんので、持っている在留資格もよく確認して雇用契約書を作成しましょう。

ポイント2. 就業場所を細かく記載する

2つ目のポイントは就業場所の記載で、こちらも絶対的明示事項です。
在留資格の申請書に記載していない場所では就業不可となりますので注意が必要な項目です。

企業の所在地で就業する場合は問題ありませんが、そのほかの場所で就業する可能性がある場合はしっかり確認しておきましょう。
就業後に変更が発生する場合は、出入国在留管理庁(入管)への届出が必要です。

ポイント3. 在留資格に適した勤務期間を記載する

3つ目のポイントは勤務期間の記載で、こちらも絶対的明示事項です。

外国人が日本で就業するには、永住者でない限り、在留資格に期限が設けられています。最短は15日、最長で5年です。
取得する在留資格に適した雇用期間を設定してください。

ポイント4. 職務上の地位を記載する

4つ目のポイントは職務上の地位の記載です。こちらも絶対的明示事項です。
例としては「正社員」「契約社員」「アルバイト」などです。

応募・面接時に確認されることが多い部分ですが、労働者との認識の齟齬がないか今一度確認しましょう。
認識が違っていたとしても採用をあきらめるのではなく、外国人従業員と一度よく話し合ってみることをおすすめいたします。

ポイント5. 賃金を記載する

5つ目のポイントは労働者と雇用主どちらにも重要な項目である、賃金の記載です。こちらも絶対的明示事項です。
「稼げると考えていた給料より安い」となった場合、離職にもつながる日本人労働者・外国人労働者のどちらにも起こりうるトラブルを未然に防ぐ必要があります。

基本給はもちろん、諸手当や時間外労働に対する割増賃金、支払日などなるべく詳細を記載してください。またこの金額は、日本人労働者と同等以上の給与水準であることが前提です。

下記も「絶対明示事項」となります。あわせて漏れなく記載してください。

  • 業務を開始する時間
  • 業務を終了する時間
  • 休憩の時間
  • 休日
  • 契約がいつまでなのか
  • 契約更新があるのか

ポイント6. 賞与・最低賃金額を記載する

6つ目のポイントは賞与と最低賃金額の記載です。
正社員としての採用の場合は相対的明示事項になるため、会社に規定がある場合のみ記載するとしても法律的に問題はありません。
しかしながらお金に関する内容は、なるべく明示したほうが後々のトラブルを回避できます
ぜひ記載することをおすすめいたします。

契約社員やアルバイトの場合は、パートタイム労働法により明示が必須となりますので注意してください。

賞与は、金額のほかに回数や時期を記載しておくと、外国人労働者がライフプランを立てやすくなります。
ライフプランを立てて経済的な安心を感じてもらうことは、外国人労働者の精神的な不安を減少させることができる親切な方法です。

最低賃金額は、外国人労働者であることを理由に日本人労働者よりも低く設定することはできません。法律で定められている最低賃金額を下回ることもあってはなりません。

ポイント7. 退職金の有無・条件を記載する

7つ目のポイントは退職金の有無と条件の記載です。
こちらは正社員の場合は賞与と同様に相対的明示事項。

契約社員やアルバイトの場合は、パートタイム労働法により明示が必須となります。

退職金が適用される職務上の地位はどういったものか、勤続年数の条件や計算方法といった部分を詳細に記載しましょう。

ポイント8. 外国人労働者に負担させる食費などを記載する

8つ目のポイントは、労働者に負担させる食費や寮の家賃などの記載です。
こちらは相対的明示事項ですが、昼食手当が出るか、食堂を使えるかなどを記載すると親切です。

また寮の完備があり住み込みが可能な場合、規約について記載しておくのがベターです。
家賃や光熱費が会社負担かどうか、何割負担なのかを記載しておきましょう!

ポイント9. 安全・衛生に関する事項を記載する

9つ目のポイントは安全・衛生に関する事項の記載です。
こちらも相対的明示事項ですが、企業には安全配慮義務があり、安全衛生に関する就業規則を定めているためその内容を記載するのが一般的です。

例えば健康診断の定期実施や費用が、会社負担であることの記載など。
作業服の着用や機械の点検など、業種によって異なる規定がある場合ももれなく記載しましょう。

ポイント10. 職業訓練に関する事項を記載する

10個目のポイントは職業訓練に関する記載です。こちらも相対的明示事項です。
職業訓練がある企業というのは、外国人労働者からするとスキルを磨く絶好の機会となるため積極的に記載することをおすすめします。

例えば、働きながら取得を目指せる資格がある場合はその内容について記載します。
また職業初期の訓練・サポートが必要な時期のみ、賃金が低くなる場合は細かく記してください。トラブルに発展しやすい項目のため注意が必要です。

ポイント11. 表彰・制裁に関する事項を記載する

11個目のポイントは表彰や制裁に関する事項の記載で、相対的明示事項となります。

表彰として代表的なものが「永年勤続表彰」や「開発・発明表彰」です。
永年勤続表彰は、表彰する年数や具体的な表彰方法などを明記しましょう。開発・発明表彰は、評価基準や過去の表彰事例を明記するとよいでしょう。

これらは社員のモチベーションを向上させたり、離職防止に役立ちます。

一方で制裁は懲戒などを指しますが、罪刑法定主義の日本においてここは企業内でしっかり取り決めておかなくてはなりません。そして、その内容をそのまま外国人雇用契約書に記載します。
外国人労働者は慣れていない日本での生活でトラブルに巻き込まれる可能性が多いため、気を引き締めてもらうためにも漏れなく記載しましょう。

またこの表彰・制裁についても、最低賃金額などと同様に日本人労働者と同等の条件にする必要があります。

ポイント12. 休職に関する事項を記載する

12個目のポイントは休職に関する事項の記載で、相対的明示事項です。
日本では休職というと取りづらいという印象がありますが、労働者の権利でもあります。
海外と日本の制度は大きく違う場合もありますので、傷病休職や自己休職といった種類も記載しましょう。

労働者がこの休職制度を把握できていない場合、大きな負担をかけてしまう可能性があるので留意してください。

12のポイントを押さえて、外国人労働者向けの雇用契約書をつくりましょう

外国人労働者向けの雇用契約書で絶対に押さえたい12のポイントを解説してきましたが、雇用契約書には「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2種類があり、それぞれ確認して記載することが重要です。

雇用契約書は、在留資格を申請する際に必要で、不備があって申請が通らなかった場合、採用活動の結果が得られない事態に陥ってしまう可能性もあります。
外国人労働者の採用が決まったらスムーズに業務を開始するためにも、ポイントをおさえた雇用契約書を作成しましょう。