「人文ビザ」という言葉を聞いたことはあるけれど、どのような滞在資格か分からない…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は日本で就労するための滞在資格の一つ「人文ビザ」について、内容や要件、手続き方法や注意点などをまとめました。

内容が複雑で難しそうに感じるところもあるでしょう。しかし一つひとつ手順を踏んでいけば、それほど難しい内容ではないことがわかるはずです。これを読んで、ぜひ外国人採用の成功への一歩を踏み出して下さい。

人文ビザは正式名称じゃない?!

女性分からないのポーズ

まず結論から言うと「人文ビザ」という名称のビザはありません。正確には「人文知識・国際業務ビザ」のことを指し、通称として「人文ビザ」や「人国ビザ」という言葉が使われています。「人文知識」や「国際業務」に携わる外国人向けの就労ビザです。

「技術ビザ」が、就労ビザの理系バージョンだとすれば、この「人文ビザ」は、就労ビザの文系バージョンだと言えるでしょう。ここでは「人文ビザ」という滞在資格について、具体的な中身を解説します。

どんなビザなの?

「人文ビザ」は「人文知識・国際業務ビザ」のことを指すわけですが、どのような職業についての滞在資格なのでしょうか。

「人文知識」は「法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する知識を要する業務」と規定されており、「国際業務」は「外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務」と規定されています。

これだけではイメージがしづらいかもしれませんが、厚生労働省の「我が国で就労する外国人のカテゴリー」を見ると、「人文知識」の具体例として「企画、営業、経理などの事務職」が、また「国際業務」の具体例としては「英会話学校などの語学教師、通訳・翻訳、デザイナー」が示されています。

「我が国で就労する外国人のカテゴリー」:厚生労働省ホームページ

まとめると「人文ビザ」を取得するためには、単純労働ではないことや、専門的知識を必要とすること、海外の文化に根付いた専門的な思考や感受性を必要とする業務であることが必要だということになります。

具体的な業務については「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について」と題する法務省の文書でも示されています。かなり具体的に説明されているので、参考にしてみて下さい。

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について:出入国管理局ホームページ

誰でも取得できる?

履歴書

この「人文ビザ」については誰でも簡単に取得できるというわけではありません。学歴、実務経験、職務内容、報酬、受け入れ先という5つの要件があるとされています。

まず学歴ですが、従事しようとする業務に必要な知識について、関連する科目を大学で専攻して卒業していることが必要です。また「人文知識」であれば10年以上、「国際業務」については3年以上の実務経験が求められます。ただ、学歴要件を満たしている場合は、実務経験が求められない等の例外もあります。

業務内容としては、単純労働ではないことがポイントです。報酬については、同じ業務に日本人が従事した場合の報酬と同等額以上である必要があります。また受け入れ先の会社が、本当に外国人を雇用する必要があるのか、支払い体力はあるのか等の観点からも審査されます。

出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令

人文ビザでアルバイトもできる?

よく話題になるのが「人文ビザでもアルバイトはできるか?」という点です。「人文ビザ」で許可された就労内容と同じ業務範囲のアルバイトであれば、入管法上は可能です。

なぜ「入管法上は」というと、例えば勤務先との雇用関係において「副業禁止」や「競業避止義務」(自社と競合になるような取引をしてはいけないという義務」を定めている場合には、アルバイトをしていることが問題になる可能性があるためです。

なお、「人文ビザ」で許可された就労内容とは異なる業務のアルバイトをしたい場合には、入国管理局で「資格外活動許可」の申請が必要になります。

資格外活動許可申請:法務省ホームページ

人文ビザの申請はこれ!

書類

それでは具体的に「人文ビザ」の申請方法を紹介します。ここでは概要を紹介しますが、受入企業の規模や本人の学歴、職歴等によって変わってくるところも多々あります。

非常にややこしいため、準備にあたっては時間の余裕をもって、何度も確認しながら進めていくことをおすすめします。

この書類が必要!

「人文ビザ」に必要な書類を解説しましょう。所属する会社によって必要となる書類が異なりますが、すべての会社に共通して必要となる書類は以下の3点です。

すべての会社に共通して必要となる書類

在留資格認定証明書交付申請書

地方出入国在留管理官署に用意されています。法務省のホームページから取得することも可能です。

★写真(4cm×3cm)1枚

写真の裏面に申請人の氏名を記載し、申請書の写真欄に貼付します。

★返信用封筒

定型サイズの封筒が必要です。簡易書留用に404円分の切手を貼付します。

所属機関によって必要となる書類

また、所属機関によって追加で必要となる書類があります。所属機関は「カテゴリー1」から「カテゴリー4」までの4種類に分類されており、上場企業かどうか、公共団体や公益法人か、源泉徴収税額が1,500万円以上ある団体かどうかなどで分かれます。

カテゴリーに応じて、学歴や職歴等をまとめた履歴書や、受け入れ先の会社概要、また決算書や事業計画書などが求められることもあります。詳しくは、法務省のウェブサイトにまとめられているので、ぜひご確認下さい。

技術・人文知識・国際業務 提出資料:法務省ホームページ

不許可になることも!

バツマーク

この「人文ビザ」は、誰でも取得ができるというわけではありません。先ほど「誰でも取得できる?」という項目で、学歴、実務経験、職務内容、報酬、受け入れ先という5つの要件を紹介しましたが、申請がうまくいかずに不許可になってしまうケースもあります。

まず学歴です。従事しようとしている業務との関連性がチェックされます。例えばスペイン語専攻なのにフランス語の先生になるといった場合、その人がフランス人でない限りは難しい可能性があります。学歴(スペイン語専攻)と業務(フランス語の先生)につながりがないからです。

また「人文ビザ」は、単純労働ではなく専門的な仕事でなければ発行されません。外国人が多く宿泊する一流ホテルでフロント通訳業務をするというなら許可されても、ベッドメイキングや清掃といった単純労働をするということであれば、まず許可されません。

また、外国人がほとんど泊まらないホテルであれば「雇用の必要性」という観点から不許可になるケースもあります。業務内容が同じなのに、なぜか日本人より給与設定が低いといった場合も許可されません。原理原則に従うことが大切です。ぜひ注意しましょう。

人文ビザの外国人を雇うには?

雇用しましたの手

制度の概要を紹介したところで、最後に「人文ビザ」の外国人を雇うための方法を解説します。日本は海外に比べても求人媒体が多く、外国人専門の求人媒体も多数存在します。

求める人材やタイミングもあるため、どの方法が正解だという決定的な手法はありません。状況に合わせて取捨選択をしたり、複数の方法を組み合わせたりすることが重要です。ここでは「学校に求人を出す」「求人サイトを活用する」「SNSで募集をかける」という3つの方法を紹介します。

学校に求人を出す!

学校に直接コンタクトをとって求人を出すことも可能です。外国人留学生の増加に伴い、日本で就職先を探したいという外国人も増えています。就職課を訪れて求人の相談をしてみたり、学生たちとコンタクトをしてみたりするのも一つの方法です。

民間の日本語学校などでは、人材紹介機能を持ち合わせているところもあり、外国人学生の就職斡旋に熱心な学校もあります。

求人サイトを活用しよう!

続いては「求人サイトを活用する」という方法です。日本には多数の外国人専門求人サイトが存在します。日本の人には知名度が高くないかもしれませんが、日本に住む外国人が職探しで使うというサイトです。ぜひチェックしておきましょう。

例えば、在日外国人向けの情報サイトでナンバーワンとされる「Gaijinpot.com」運営の求人サイト「Gaijinpot Jobs」。日本で働きたい外国人の多くが登録するサイトと言われています。

また、バイリンガル人材専門の求人サイトとしては国内最大級の「Daijob.com」。同社が運営するのが「Jobs in Japan」です。外国人IT人材を探したい会社なら見ておく価値があります。さらには、実際に外国人専門の紹介派遣事業を運営するビーコス社が運営するのが「HIWORK」。転職サイトを運営するだけでなく、外国人に特化した人材紹介や人材派遣の事業もやっているというのが特徴です。

SNSで募集をかけよう!

また忘れてはいけない手法がSNSです。人材会社や転職サイトを通じた転職も多いですが、SNSによる「一本釣り」というやり方も増えてきています。

特に有名なのが「LinkedIn」(リンクトイン)です。ビジネスSNSですが、求人関係者が多数チェックしていることでも知られています。そのため登録者の多くは、求人の誘いが来ても怪しむことなく興味をもって内容確認をしてくれる人が多いようです。

人文ビザについて詳しくなりましたか?

握手

「人文ビザ」について解説してきました。正確には「人文知識・国際業務ビザ」を指すこと、そして様々な要件があることがご理解いただけたのではないでしょうか。

学歴と職務との関係性、単純労働ではなく専門的な業務であること、報酬が日本人と相違ないことや、その人が本当に必要な人材であるかどうか等、審査の基準をいくつか解説しました。

なかなか複雑なところもありますが、よりわかりやすくイメージしていただくため、不許可になる参考例や、採用手法についてもご紹介しました。様々な要件はありますが、きちんと手順を踏みさえすれば、外国人採用は難しいことではありません。ぜひ皆様が外国人雇用に向けて、一歩前に足を踏み出すきっかけになればと願っています。

ライタ―紹介

渡邉 裕晃(「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」共著者)

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