総人口のうち65歳以上が占める割合が21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれ、日本は2017年に27.7%に達し、世界でも突出した「超高齢社会」です。
現在、約2.6人に1人が65歳を超え、約3.9人に1人が75歳を超えるとされており、今後も総人口の減少が続くなか、65歳以上の人口増加が予想されています。このような状況から危惧されるのが「介護士」の不足です。

出典:厚生労働省 介護分野の現状等について
介護福祉士登録者数や介護福祉士従事者数は増加しているものの超高齢化社会である今、全体では介護士不足が深刻化しています。そこで近年では、介護士不足を補うために、外国人介護士を積極的に受け入れているのです。
その中でも特に多いのが「フィリピン人」。そこで今回はフィリピン人介護士が増加している背景や受け入れ方法について解説していきます。フィリピン人介護士が日本の将来を支えていくのでしょうか?
目次
日本にフィリピン人の介護士が多いって本当?

メディアなどでも取り上げられる機会が多いフィリピン人介護士ですが、日本の介護分野で働くフィリピン人介護士は本当に多いのでしょうか?受け入れ状況や受け入れ方法から探ってみましょう。
受け入れの現状は?
2008年(平成20年)に発効された日・フィリピン経済連携協定(EPA)に基づき、2009年(平成21年)からフィリピン人看護師・介護士候補者の受け入れが始まりました。厚生労働省によると、2017年(平成29年)9月1日時点で、フィリピン人介護士候補者は1,400人に達しています。
また、公益社団法人・国際厚生事業団(JICWELS)が2017年に発表した「外国人介護士の現状~EPAによる受入れを中心として~」では、介護分野の外国人介護職員は約3,500人で、そのうち41.4%がフィリピン人という結果でした。下記のグラフから、フィリピン人介護労働者が群を抜いて多いことが分かるでしょう。

外国人の介護士を受け入れる方法は?
では次に、外国人介護士を受け入れる方法について解説します。現在のところ、受け入れるための制度は4つです。
◆EPA(経済連携協定)
EPAとは、物品及びサービス貿易の自由化を定めた自由貿易協定(FTA)を基盤に、ヒト・モノ・カネの自由化・円滑化を定めた協定で、二国間の経済連携の強化を目的としています。前述した「JICWELS」が日本国内で唯一のあっせん機関で、介護福祉士候補者の在留資格は「特定活動」です。
◆在留資格「介護」
介護は2017年9月1日に施行されたばかりの在留資格。対象者は日本の介護福祉士養成施設を卒業し、介護福祉士の資格を取得した人です。最大の特徴は、「留学」や「技能実習」の在留資格で入国し、2年以上の修学や研修を経て国家試験に合格することで在留資格を「介護」に変更できる点。受け入れには、「養成施設」と「実務経験」の2つのルートがあります。
◆在留資格「技能実習」
外国人技能実習とは、国際貢献の一環として開発途上国等へ技能、技術又は知識を転移し、経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とした制度です。2017年11月1日に施行された「技能実習法」にあわせ、介護職種が追加されました。受け入れ方式には「企業単独型」と「団体管理型」があり、技能実習1年目は「技能実習1号」で、企業単独型は「技能実習1号イ」、団体管理型は「技能実習1号ロ」に分類されます。また、2~3年目には「技能実習2号」になり、4~5年目には「技能実習3号」になります。在留資格は最大で5年です。
他の制度ほど高い日本語能力を求められないこともあり、介護分野では積極的に技能実習を受け入れています。しかし、2年目には日本語能力試験「N3」程度が要件となるため、日本語学習と介護業務の両立が大きな課題と言えるでしょう。
◆在留資格「特定技能1号」介護
2019年3月1日に施行された在留資格「特定技能」は、深刻化する人手不足の対応措置で、一定の専門性や技能を持つ外国人を受け入れる制度です。入国前に母国で技能水準・日本語能力水準の試験等に合格した後、受け入れ先企業と雇用契約を締結すれば在留資格「特定技能1号」が得られます。

出典:法務省 新たな在留資格「特定技能」について
フィリピン人の介護士が多い理由は?

ではなぜ、介護分野にはフィリピン人介護士が多いのでしょうか?年収や働きやすさから理由を探っていきます。
日本の介護士の年収は高い
労働条件と生活水準の改善を目的とする国際労働機関(International Labour Organization)によると、フィリピンの平均月収は1万3,487.26ペソ(約2万8,500円)です。月に22日働くと仮定すると、日給は613ペソ(約1,300円)となります。多少の増減はあるでしょうが、いずれにしても日本人にとっては低い賃金と言えるでしょう。
一方、厚生労働省の「介護人材の確保について」によると、介護福祉士の有資格者の平均賃金は約23万5,000円、勤続年数1年未満でも20~24歳男性で18万3,400円、女性で17万8,900円です。フィリピン人が日本で介護士として働くのは、技能だけでなく日本語能力の水準も求められるので大変ですが、フィリピン国内で働くより年収が高いのが分かります。
経済成長が著しいフィリピンですが、未だ国民の80%が貧困層。国内で仕事を見つけるのは難しいのが現状です。また、職を得たとしても年収が上がらないため、多くの人が海外への出稼ぎのチャンスを狙っています。
日本は住みやすく働きやすい

介護分野の外国人労働者のうち41.4%を占めるフィリピン人。多さの理由は年収の高さだけではありません。もちろん、日本が超高齢社会に突入したために人手不足で仕事に就きやすいというのも理由のひとつでしょう。
その他に考えられる理由は、在日フィリピン人が多いことでしょう。2019年6月時点で約27万7,400人、中国、韓国、ベトナムに続く多さです。特に東京都足立区竹ノ塚は「リトル・マニラ」と呼ばれ、フィリピン人のコミュニティもあり情報交換の場としても機能しています。
最近では消費税が10%に上がり日本も住みにくくなったと感じる人もいるかもしれませんが、治安面において日本ほど安全な国はありません。フィリピンも安全なエリアで行動している限りめったに危険な目に合うことはありませんが、スーパーやコンビニには拳銃等を持ったガードマンがいることもしばしば。置き引きなども発生するので、レストランやカフェでも油断はできません。
世界トップの治安の良さを誇る日本は、フィリピン人だけでなく外国人にとって住みやすい国と言えるでしょう。
フィリピン人介護士を雇うメリットは?

では最後に、フィリピン人の国民性を象徴する「フィリピーノ・ホスピタリティ」に触れながら、フィリピン人介護士を雇うメリットをご紹介します。
明るい性格で人気者に!

フィリピン人の国民性を表すのに、しばしば「ホスピタリティ(hospitality)」という言葉を耳にします。ホスピタリティの意味は、「手厚いおもてなし」あるいは「おもてなしの心」。日本の「おもてなし」にも通ずる歓迎の精神のことです。
つまり「フィリピーノ・ホスピタリティ」とは、知らない人にも親切にする「フィリピン流おもてなし精神」のこと。フィリピンの人は知らない人でも困っていれば親切にし、いつも笑顔で接しようと心がけているそうです。
介護職の人材紹介サービス「介護のお仕事」を展開する株式会社ウェルクスが、同社のウェブサイト「介護のお仕事研究所」の読者や介護系のSNSの読者を対象に「外国人介護士の受け入れ」について調査しました。自分の職場に外国人介護士が入職することについて賛成と回答した人や、外国人介護士を受け入れるメリットについてのコメントの一部をご紹介します。
「以前勤めた特養に、フィリピンの方が二人いた。言葉の問題は多少あったが、ケアの細やかさは、日本人よりも上と感じた」(40代・男性)
「特にフィリピン人の女性たちは明るく、年齢にかかわらず可愛らしい方が多いため、利用者の心を明るくしてくれることが多い。また、認知症の方なども英語でコミュニケーションをとろうとしたりして、脳の活性化にもつながることを感じている」(40代・女性)
「フィリピン人、パキスタン人、韓国人、中国人の介護士と一緒に仕事したが、中でもフィリピン人介護士は利用者からの人気も高く、明るく、働き者だ。彼女たちはやる気をもってはたらきに来る。それを育てきれる職場かどうかが一番の問題であると感じている」(40代・女性)
出典:介護職の8割「外国人介護士を受け入れても、人材不足は解消しない」。外国人介護士の受け入れに関する調査を、株式会社ウェルクスが実施|介護のお仕事研究所
フィリピン人の介護士について詳しくなりましたか?

超高齢社会となった日本で、今後ますます懸念される介護部門の人手不足。外国人介護士の受け入れが整備されれば、さらに国際化が進むでしょう。言語や文化が異なる外国人が日本で介護士として働くのは、日本人が想像する以上に大変なことです。
「フィリピーノ・ホスピタリティ」に頼るだけでなく、介護を受ける日本人もフィリピン人介護士をはじめとする外国人介護士を受け入れるおもてなしの精神を示していきたいものです。